自動車の未来:CASEって何?

公開日:2022/06/01

CASEとは

「CASE」は100年に1度の大変革期といわれる自動車産業の4つの重大トレンドで、次世代技術やサービスを意味する4つの英語の頭文字をとった造語です。それぞれ「Connected:コネクティッド(つながる車)」、「Autonomous:自動運転」、「Shared & Service:シェアリング&サービス」、「Electric:電動化」を意味します。
CASEは、2016年9月に開催された「パリモーターショー2016」にて、ダイムラーAGのツェッチェCEOが中長期戦略の中で初めて使用しました。自動車業界においてもIT企業が台頭するなか、ダイムラーがイノベーションと業界を主導するというメッセージを打ち出し、新たなモビリティ社会の創出を目指すべく、CASE戦略を策定しました。
CASEは今後も自動車メーカーが生き残っていくための戦略であり、自動車メーカーが単に自動車を製造販売する会社から、モビリティサービスそのものを提供する会社へと変化しなければならないことを意味します。
自動車産業とクルマ社会の将来動向を示すキーワードであり、モビリティ社会の将来を考えるために必須となるCASEの各領域について見ていきます。

Connected

コネクティッドとは
「C(Connected)」のコネクティッドは、車から得られる様々なデータがインターネットを介して集積・分析され、様々に活用されていくことを指します。ネットワークに常時接続され、IoT端末となる車をコネクティッドカー(つながる車)といい、コネクティッドカーに搭載されている通信機能付き車載器のセンサーにより、周囲の状況や車両情報・走行情報の取得が可能になります。
現在実用化されているものとしては、車車間・路車間通信によって、周囲の車の位置や速度、道路交通状況などを取得して安全運転支援を行うサービスや、車両の状態や位置、運転手の運転の特徴などの情報の分析を提供するサービスがあります。また、動画の視聴や車内から自宅の家電を操作するなどの車載エンタテインメント(インフォテインメント)サービス、災害時などの緊急時に手動/自動で通報できるサービスなどがあります。これらのサービス・機能は、自動運転技術にも親和性の高い技術です。
IT企業の提供するスマートフォン連携を含めれば、2030年までには先進国の新車は全てコネクティッドカーとなり、ネットワークに接続される車両数は10億台に迫ると試算されます。この大規模なネットワークから生まれるデータから、様々なモビリティサービスが生まれることは容易に想像できます。

コネクティッド事例
・マツダ「マツダ コネクティッドサービス、MyMazda」
ほとんどの自動車メーカーはコネクティッド技術を採用し、コネクティッドサービスを展開しています。トヨタの「T-Connect」、日産の「NissanConnect」などです。ここではマツダの「マツダ コネクティッドサービス、MyMazda(スマートフォンアプリ)」を紹介します。
コネクティッドサービス登録車は、スマホの回線や車載通信機を介してクラウド上にあるマツダサーバーとつながります。データ通信によってサービス登録車が収集・連携され、サービスを受けることが可能になります。現在搭載されている機能としては、緊急通報、盗難追跡(「リモートモニター」と「カーファインダー」機能)、車のコンディション確認などがあげられます。
マツダに限らず、日本の自動車メーカー各社は、コネクティッドサービスの提供にスマートフォンアプリを活用しています。詳細に関しては弊社の「国内主要自動車メーカーコネクテッドアプリの比較」の記事を参照ください。

・あいおいニッセイ同和損保×トヨタ「タフ・つながるクルマの保険」
上のマツダ事例はコネクティッドサービスのデータ収集・蓄積の部分にあたり、ここでは、そのデータの活用事例を一つご紹介します。
あいおいニッセイ同和損保とトヨタは、コネクティッドカーから取得できる走行データをもとに、「お客さまの安全運転を支援する機能」や「安全運転による保険料割引」などのサービスを提供する「タフ・つながるクルマの保険」を共同で開発し、2018年1月より販売を開始しました。
「タフ・つながるクルマの保険」加入者は、同社の自動車保険「タフ・クルマの保険」加入者と比較すると、事故頻度が約3割抑えられており、事故低減効果が確認されています。
このように通信機能付き車載器を使って走行データを取得し、走行データに基づき保険料を算定する自動車保険をテレマティクス自動車保険といいます。


タフ・つながるクルマ保険のイメージ

Autonomous

自動運転とは
A(Autonomous)」は自動運転を指します。自動運転にはレベルが1から5まで存在しており、多くの自動車メーカーが自動運転レベル1〜2の技術を市販車に搭載しています。レベル3の技術の搭載に成功できているのは、2022年4月時点で日本ではホンダのみです。
下記の図は自動運転のレベル分けを示す資料です。
自動運転レベル3と自動運転レベル4以降の違いは、運転の主体が「人」か「システム」かになるかという点です。レベル3までは「人」が主体で、レベル4以降は「システム」が主体となります。なお、レベル4とレベル5の違いは、エリア制限の有無で、レベル5になると場所を問わずに自動運転が可能になります。自動運転の浸透によって、事故の減少や渋滞の解消が期待されています。


出典:国土交通省「自動運転のレベル分けについて」


自動運転事例

・ウェイモ「自動運転タクシー」
自動運転分野においては、IT企業の参入が顕著であり 、中でもGoogleから独立したWaymo(ウェイモ)が有名です。
Waymoは2018年12月、米アリゾナ州で自動運転タクシーの有料商用サービス「Waymo One(ウェイモワン)」を世界で初めて開始しました。当初は乗客を過去の実証実験参加者らに限定し、安全のため運転席に専用のスタッフが同乗した状態での運行でしたが、対象を拡大していくとともにセーフティドライバーなしの無人運行も開始し、2020年には一般を対象とした無人運行にも着手しています。
2021年8月からはカリフォルニア州サンフランシスコで、一般市民を対象とする自動運転タクシーのサービスプログラム「Waymo One Trusted Tester」を開始しています。
なお、こちらはレベル4の自動運転の事例となります。

・マツダの自動運転
上記の一般的なシステム主導を目標とした自動運転と異なったアプローチとしては、マツダの「CO-PILOT(コパイロット、航空機の副操縦士を指す)」があげられます。
マツダは、運転行為自体は意義があり、「運動」と同様な価値があるとの考えを示しています。人間中心の考えの元自動運転技術に取り組んでおり、あくまで人間の運転を前提としながら事故削減を目指しています。
具体的には、運転手の不注意や異常を検知される際に、システムが車両を制御し、安全な場所に車を退避させます。将来的には脳機能低下を予測する技術の実用化を目指すとのことです。

Shared/Service

シェアリングとは
「S(Shared & Services)」は、カーシェアリングやライドシェアリングを指します。カーシェアリングとは、事業者が保有する車両をメンバーへ貸し出す仕組み(車両のシェア)を指し、日本ではタイムズ24が有名です。ライドシェアリングとは、運転手のいる車に希望者を同乗させるサービス(移動のシェア)を指し、ウーバーやリフトなどが有名です。世界的にはライドシェアが浸透しているものの、日本国内においては自家用車によるライドシェア(白タク)が違法であり廃車サービス業者も限られていることから、国内ではカーシェア事業がメインになります。

下記の表はカーシェアリングとライドシェアリングの違いを示すものになります。

カーシェアリング ライドシェアリング
サービス内容 車両の提供 配車の仲介
車両所有者 主に事業者 主に個人
運転手 車両の借り手 車両の所有者
競合相手 レンタカー タクシー
代表的なサービス タイムズ24、カーツーゴー ウーバー、リフト

車を所有するのではなく、シェアリングして利用する意識が高まり、車を移動・サービスで利用する時代になりつつあります。カーシェア事業の進展に伴い、無人タクシーなど自動運転を用いたサービス事業が今後次々と誕生すると考えられています。

シェアリング事例
・SUZUKIの中古車サブスクリプションサービス「スズキ定額マイカー」
トヨタレンタカーなど、車メーカー母体の既存のレンタカーの事例が多い中、スズキは2022年1月、月額定額で利用できる中古車のサブスクリプションサービス「スズキ定額マイカー」を開始しました。
スズキ定額マイカーは、車をもっと気軽に利用してもらいたいという思いから生まれた、税金や自動車保険料を含めて月額2万9000円からスズキの中古車を利用できるサブスクリプションサービスです。
スズキは、予防安全技術「スズキ セーフティ サポート」を搭載した高年式の中古車を取り揃え、契約期間を6か月間とすることで、ユーザーにシンプルで気軽に利用できるようにしています。また、申し込みから契約、登録手続きまでを専用サイト、または郵便を用いた非対面形式で完結することで、時代の変化に対応したサービスとなっています。

・トヨタカーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」
トヨタは2019年10月よりトヨタ販売店/トヨタレンタリース店によるカーシェアリングサービスを全国展開しています。予約から精算までをスマートフォンアプリで完結して行えることが特徴です。アプリ上でステーションを探して車を予約し、実際に予約車両に乗るときはスマホ上のアプリで施錠します。トヨタ車の豊富なラインナップを利用できることも特徴です。

Electric

Electricとは
「E(Electric)」は自動車の電動化の推進(EV)を指します。地球温暖化対策・環境対応として脱炭素社会・カーボンニュートラルへの取り組みが世界的になされ、化石燃料から電気へと、車の動力源の移行も進んでいます。
EVシフトに積極的なEU各国ではこれまで独自にガソリン車やディーゼル車の販売規制を打ち出してきましたが、2021年7月にEUとして2035年にハイブリッド車を含むガソリン車・ディーゼル車の販売を事実上禁止する方針を打ち出しました。
中国では、2035年を目途に新車販売を環境対応車(EVやHV車など)のみとする検討が進められており、アメリカでは2030年に新車販売の50%をEVにする目標が掲げられています。
日本でも、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標の下、ガソリン車の新車販売禁止の検討、EVの購入補助を行うなど、EV推進が進められています。

EV事例
・トヨタのEVへの取り組み
2021年12月14日、トヨタは「バッテリーEV戦略に関する説明会」を開催し、2035年までの電気自動車(EV)に関する方針を発表しました。
内容としては、2030年までに世界のバッテリーEV販売台数を年間350万台、またレクサスブランドでは2035年までにEVを100%にすることを目指すというもので、そのために、2030年までにEV関連に4兆円を投資します。
また、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車についてはさらに4兆円の投資を行います。TOYOTAのBEVは唯一の回答ではなく、水素自動車など他の新エネルギー車の普及にも力を入れようとする姿勢が感じ取れます。

・ソニーとホンダのEV協業
EV開発において、異業種からの参入が目立っています。中国では、ファーウェイ、アメリカでは、アップルなど、相次ぎEVへの参入に意思を表明し、その動きが加速しています。
日本では、2022年3月4日、ソニーとホンダは両社で合弁会社を設立し、新会社を通じEVを共同開発・販売し、モビリティ向けサービスの提供と併せて事業化していく意向を確認した基本合意書を締結しました。
ホンダが長年培ってきたモビリティの開発力、車体製造の技術やアフターサービス運営の実績と、ソニーが保有するイメージング・センシング、通信、ネットワーク、各種エンタテインメント技術の開発・運営の実績を持ち寄り、利用者や環境に寄り添い進化を続ける新しい時代のモビリティとサービスの実現を目指します。
2022年中に設立予定の新会社によるEV車両の初期モデルの販売開始は、2025年を想定しています。

日本政府の取り組み

・CASEにおける政府の対応
経済産業省では、2018~2019年「自動車新時代戦略会議」 においてCASEの生み出す価値について言及する、2020年「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」 においてはCASE対応やその協調領域について議論する、2020年「CASE技術戦略プラットフォームまとめ」 においては取り組むべきCASEの技術について論じるなど、CASEに対する意識の高さが窺えます。

出典:経済産業省「第3回自動車新時代戦略会議事務局説明資料」

まとめ

1769年、初めての自動車が誕生して以来、車は世の変化とともに色々な形で進化してきました。ただし、これからの時代は、車の形の変化だけではなく、車が提供する本質の価値を人々が追及していく時代になることが予想されます。車の価値は所有することから「移動」もしくはそれ以外のコアの部分へと変化していくでしょう。車産業のステークホルダーにとっては、その価値を提供することこそ、次の時代で生き残る道となります。その道標になるのがCASEです。
CASEは、車産業の次の方向性を示すキーワードであり、既存の車産業に変革を迫る言葉でもあります。CASEとは? に対しても、未だ100点の正解がない状況です。本記事では、CASEの氷山の一角しか触れていませんが、この記事がきっかけで水面下のCASEに対して興味を持っていただけたのなら、本記事の目的は達成です。 車の次の100年はどうなるでしょうか。ぜひ一緒に“正解”を見つけに行きましょう!


執筆者紹介
Automotiveチーム コンサルティング事業部

Automotiveチームは、自動車業界を長年経験している少数精鋭の優秀なメンバーより構成。
製造からマーケティング、アフターサービスまで、自動車業界における幅広いIT関連システムのコンサルティング・導入実績を有する。また、自動車業界における業務改革、中長期の戦略立案、マーケティング戦略、新規事業立案なども手掛ける。
近年では、CASEにおけるConnected Serviceのグローバル展開、データ活用、及び関連新規モビリティサービスの企画・PoCなどに注力。